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リカバリーウェアの効果は本当?「着るだけで疲労回復」の正体を追う

着るだけで、疲労回復? 噂の追跡調査
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最近、衣料品売り場やネット通販を眺めていると、「リカバリーウェア」という言葉をかなり見かけるようになった。

寝るときに着る。部屋着として着る。なかには日中もそのまま着られることを売りにする商品もある。そして商品説明には、「血行促進」「疲労回復」「筋肉の疲れを軽減」「筋肉のこり改善」といった言葉が並ぶ。

見た目は、パジャマやスウェット、インナーとそれほど変わらない。

ところが、商品によってはパッケージや公式サイトに「一般医療機器」と書かれている。

服を着るだけで、本当に疲れが取れるのだろうか。

たしかに、暖かい服を着れば体は冷えにくい。寒い夜に薄着で寝るより、温度や肌触りが自分に合ったパジャマで眠った方が快適なのは想像しやすい。

だが、それならヒートテックのような発熱・保温系インナーは以前からある。

さらに遡れば、「遠赤外線」「セラミック」「蓄熱」といった言葉を掲げた暖かい肌着も、ずっと昔から売られてきた。

それなのに、いまはそこへ「リカバリー」という名前が付く。

暖かいだけなのか。それとも、本当に何か別の作用があるのか。

しかも「一般医療機器」と表示できるのなら、国が疲労回復効果を確認しているという意味なのだろうか。

この疑問から調べ始めたのだが、話は思っていたより単純ではなかった。

遠赤外線を利用した衣料そのものは、決して新しい技術ではない。

一方で、現在の一般医療機器型リカバリーウェアには、遠赤外線の放射特性を測り、さらに人が実際に着用したときの血流変化まで調べる、かなり具体的な評価基準が存在する。

ところが、その基準を満たして「一般医療機器」として届出されていることと、個々の商品について「着れば疲労が回復すると国が審査して認めた」ことは同じ意味ではない。

さらに研究論文まで追っていくと、筋肉痛、血流、筋力、睡眠、主観的な疲れ――何を「回復」と呼ぶかによって答えそのものが変わってくる。

この記事では、リカバリーウェアを「効く」「効かない」の二択で片づけない。

そもそも何が普通の防寒着と違うのか。昔からあった遠赤外線衣料が、いつ、どのように「疲労回復する服」として語られるようになったのか。そして「一般医療機器」という言葉は、いったい何を意味しているのか。

まずは、いちばん素朴な疑問から整理していこう。

リカバリーウェアの効果は本当? まず「着るだけで疲労回復」を整理する

現在「リカバリーウェア」と呼ばれている商品を眺めてみると、かなり幅がある。

TENTIALの「BAKUNE」、VENEXの各種リカバリーウェア、SIXPAD、AOKIの「RECOVERY CARE+」、リライブ、WORKMANの「MEDIHEAL」など、もともとの得意分野がまったく違う企業まで参入している。

睡眠ブランドに近い商品もあれば、スポーツ・コンディショニング寄りのもの、紳士服・ルームウェアの延長にあるもの、低価格の日常着として売られているものもある。

価格差も大きい。

数千円台で買える商品がある一方、トップスとボトムスを揃えれば2万円、3万円を超えるものも珍しくない。

それでも商品ページには似たような言葉が並ぶ。

  • 特殊繊維
  • 遠赤外線
  • 血行促進
  • 疲労回復
  • 休養
  • 睡眠

このため、ぱっと見では「どれも同じような仕組みなのかな」と思いやすい。

だが、ここには最初から一つ注意点がある。

「リカバリーウェア」という言葉自体は、医療機器制度上の正式な一般的名称ではない。

市場で使われているジャンル名だ。

だから、「リカバリーウェア」と書かれている商品がすべて一般医療機器というわけではない。

逆に、一般医療機器ではない商品だからといって、特殊素材や独自繊維が使われていないとも限らない。

このあたりは後半でメーカーごとに詳しく見ていくが、最初から「リカバリーウェア=全部同じもの」と考えない方がいい。

「一般医療機器」と書かれていると、一気に本物っぽく見える

それでも、やはり気になるのが「一般医療機器」という表示だ。

一般医療機器として届出されている製品では、

  • 血行促進
  • 疲労回復
  • 筋肉の疲れを軽減
  • 筋肉のこりを改善

といった効能が示されているものがある。

普通の衣類なら、「暖かい」「着心地がいい」「吸湿性が高い」「ストレッチする」といった説明が中心になる。

そこへ「疲労回復」や「筋肉のこり改善」という言葉が加われば、印象はかなり変わる。

しかも、その横に「一般医療機器」とあれば、

「これは健康グッズではなく、医学的に効果が認められた服なのでは?」

と受け取りたくなるのも自然だと思う。

実際、「一般医療機器」という制度は今回の記事の重要なポイントになる。

ただし、ここで早々に「医療機器だから効果は証明済み」と結論づけると、この先の話をかなり取り違える。

医療機器には複数のクラスがあり、一般医療機器には一般医療機器なりの制度がある。

さらに、「承認」と「認証」と「届出」は同じ手続きではない。

この違いは後で詳しく見る。

でも、体を暖めるだけならヒートテックでもいいのでは?

もう一つ素朴な疑問がある。

リカバリーウェアの正体が「体を暖める服」なら、ヒートテックのような保温インナーでもいいのではないか。

この二つは、一見すると近い。

どちらも着る。どちらも冬場なら暖かく感じる。肌に近いところで使う商品も多い。

しかし、メーカーが説明している仕組みと目的は少し違う。

ユニクロのヒートテックは、人体から出る水蒸気を繊維が吸着したときに生じる熱を利用する吸湿発熱と、繊維の間に暖かい空気を保持する保温を中心とした衣料だ。

簡単に言えば、主役は「どうやって暖かさを作り、それを逃がしにくくするか」にある。

一方、現在一般医療機器として展開されるリカバリーウェアの多くでは、セラミックや鉱物などを含む特殊繊維が人体から放射される熱を受け、遠赤外線を輻射し、それによって血行を促進するという説明が行われている。

目的として掲げられるのも、単なる「暖かさ」ではなく、血行促進や疲労回復等だ。

種類 主な考え方 主な目的
ヒートテック系 吸湿発熱・保温 暖かさを作り、保持する
一般医療機器型リカバリーウェア 特殊繊維からの遠赤外線利用 血行促進を通じた疲労回復等

もちろん、現実の着用感では完全に切り分けられるわけではない。

リカバリーウェアにも保温性はあるし、暖かい服を着て快適に過ごすこと自体が休養へ影響する可能性もある。

逆に、普通のパジャマでも、肌触りや温度が自分に合えば「よく眠れた」「翌朝楽だった」と感じることはあるだろう。

そのため、「暖かい服」と「回復する服」を単純に別世界のものとして考えることもできない。

ただ、少なくともメーカーが何を機能として説明し、何を効能として掲げているかという点では違いがある。

では、現在のリカバリーウェアでよく見る「特殊な鉱物やセラミックを含む繊維から遠赤外線を利用する」という発想自体は新しいのだろうか。

ここを遡ると、一気に1980年代まで戻る。

遠赤外線を使ったリカバリーウェアの技術は1980年代からあった

世代をつなぐ、ぬくもりの衣服

現在のリカバリーウェアを紹介する記事や広告を見ると、「特殊鉱物」「セラミック」「遠赤外線」という言葉が並ぶことがある。

いかにも最近の素材開発から生まれた高機能衣料のように見える。

ところが、遠赤外線を利用した保温繊維の歴史はかなり古い。

少なくとも1980年代には、日本でセラミックなどを利用した遠赤外線加工保温繊維の開発と商品化が進んでいた。

1986年には「遠赤外線加工保温繊維群」が存在していた

国立科学博物館の産業技術史資料データベースには、「遠赤外線加工保温繊維群」という資料が登録されている。

製造年は1986年。

資料では、日本の合成繊維メーカー各社が1980年代後半から、セラミックスなどを利用した蓄熱・保温繊維を次々と商品化していった流れが紹介されている。

出典:国立科学博物館 産業技術史資料データベース「遠赤外線加工保温繊維群」

さらに1988年のカルガリー冬季オリンピックでは、炭化ジルコニウムを練り込んだナイロン繊維を使った太陽光蓄熱素材が採用され、この時期には各社の機能性繊維開発が活発になっていた。

ここで重要なのは、当時すでに、

  • セラミックなどの無機物を繊維へ練り込む
  • 熱エネルギーを利用する
  • 遠赤外線を放射する
  • その機能を衣料・寝具へ使う

という、現在の一部リカバリーウェアにも通じる考え方が存在していたことだ。

1988年にはクラレの「ロンウエーブ」

この時期の代表例の一つが、クラレの遠赤外線放射ポリエステル「ロンウエーブ」だ。

繊維業界紙「繊維ニュース」の1999年の記事によると、ロンウエーブが発売されたのは1988年。

遠赤外線の放射率が高いセラミックスをポリエステル繊維へ練り込み、保温性を高める素材として展開された。

出典:繊維ニュース「遠赤外線素材」関連記事

用途を見ると、さらに現在とのつながりが見えてくる。

  • ふとんわた
  • ふとん側地
  • カーペット
  • 衣料用中わた
  • 靴下
  • サポーター
  • 肌着

遠赤外線素材というと、昔の健康グッズのようなイメージを持つ人もいるかもしれない。

しかし実際には、寝具や肌着、防寒衣料など、日常生活にかなり近いところで使われていた。

1997〜98年秋冬には、ワコールがこの素材を使った女性用肌着「暖ごこち」を商品化したことも確認できる。

つまり、現在「遠赤外線を利用したリカバリーウェア」と呼ばれているものを見るはるか前から、消費者は「遠赤外線素材を使った暖かい肌着」を買うことができた。

特許を読むと、今と似た言葉が出てくる

クラレが1988年に出願した「遠赤外線を放射するポリエステル繊維の製造方法」では、酸化物セラミックスの微粉末をポリエステルへ含有させる方法が記載されている。

用途として挙げられているのは、ふとん綿、カーペット、肌着、防寒着など。

出典:クラレ特許 JPH01280016A

現在の商品説明だけを読んでいると、

「鉱物やセラミックを繊維に練り込み、人体からの熱を受けて遠赤外線を利用する」

という仕組みは、2020年代に登場した新技術のように感じる。

だが、基本的な発想の系譜はかなり古い。

確認できること

「遠赤外線を放射する特殊繊維」という発想が、最近のリカバリーウェアと一緒に突然生まれたわけではない。

少なくとも1980年代には、セラミックなどを利用した機能性繊維が商品化され、肌着や寝具にも使われていた。

ただし、昔の主役は「回復」ではなく「保温」だった

ここで現在との違いが出てくる。

1980〜90年代の資料や特許で中心にあるのは、主に「保温」「暖かさ」だ。

遠赤外線を利用すること自体は似ていても、

「血行促進によって疲労回復する」

「休養の質を高める」

「寝ている間にリカバリーする」

といった現在のブランドメッセージとは少し違う。

もちろん、当時の素材と現在の素材をそのまま同一視することもできない。

セラミックの種類、含有量、繊維構造、編み方、測定方法、衣服としての設計などは進化している。

ここで言いたいのは、

遠赤外線という技術そのものが新しいのではなく、「その技術を何のための服として意味づけるか」が変わってきた

ということだ。

では、「リカバリー」という名前そのものはいつ登場したのか。

こちらも2022年ではない。

リカバリーウェアはいつからある? 2022年以前の歴史を追う

現在の「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という一般的名称が新設されたのは2022年だ。

そのため、制度の歴史だけを見ると、

「2022年ごろにリカバリーウェアという新しい商品ジャンルが誕生した」

ようにも見える。

しかし、時系列は逆だ。

「リカバリーウェア」という商品カテゴリーは、制度ができるずっと前から市場に存在していた。

VENEXは2010年2月から「休養時専用ウェア」を販売

分かりやすい例がVENEXだ。

VENEXの公式沿革やFAQによると、同社は2010年2月から「休養時専用ウェア」としてリカバリーウェアを正式販売している。

出典:VENEX「会社沿革」

出典:VENEX「よくあるご質問」

現在の衣類専用一般医療機器カテゴリーができる12年以上前だ。

ここで興味深いのは、「遠赤外線素材を使った暖かい服」というだけではなく、「休養するときに着る服」という使い方そのものが商品コンセプトになっている点だ。

VENEXの開発ストーリーでは、介護分野向け製品の研究を出発点に、東海大学などとの連携を経て、運動後や休養時に着用するウェアとして開発が進められたと説明されている。

出典:VENEX「リカバリーウェア開発ストーリー」

1980〜90年代の遠赤外線保温衣料では「暖かさ」が中心だった。

ところが2010年前後になると、同じような特殊繊維の文脈に「休養」「リカバリー」という意味が重ねられるようになる。

この変化はかなり大きい。

「リカバリーウェア」という市場は制度より先に育っていた

VENEXだけで市場全体の始まりを断定することはできない。

同社はリカバリーウェアという概念を2010年に生み出したと説明しているが、この記事では「世界初」などの一般化まではしない。

それでも、少なくとも2010年2月に日本で「リカバリーウェア」として正式販売されていたことは確認できる。

つまり、

「2022年に国が新しい制度を作ったので、その後に企業がリカバリーウェアを売り始めた」

という順序ではない。

市場の方が先に存在していた。

BAKUNEも2021年にはすでに本販売

現在の市場を代表するTENTIALの「BAKUNE」も、制度新設より前から存在している。

TENTIALの公式資料によれば、BAKUNEは2021年2月に本販売を開始した。

出典:TENTIAL「BAKUNEブランドストーリー」

その後、2022年に衣類専用の一般的名称が新設され、2023年にはBAKUNEの一部製品が一般医療機器として届出されていく。

ここでも、順番は、

制度 → 商品

ではなく、

商品・市場 → 制度整備

に近い。

2022年は「発明の年」ではなく「整理の年」

年代を並べると、だいぶ見えやすくなる。

  • 1980年代:遠赤外線を利用した保温繊維・衣料が登場
  • 2010年:VENEXがリカバリーウェアを正式販売
  • 2021年:BAKUNEが本販売開始
  • 2022年:衣類専用の一般医療機器カテゴリーが新設

2022年に生まれたのは、遠赤外線衣料でも、リカバリーウェアという市場でもない。

では、いったい何が変わったのか。

そこを追うと、現在の制度ができる前の、少し不思議な状態が見えてくる。

服なのに「温熱用パック」。

遠赤外線を利用した一部の衣類は、以前そんな名前の医療機器として届出されていた。

なぜ2022年に変わった? 「温熱用パック」から衣類専用の一般医療機器へ

温もりの進化:昔と今の衣料分類

「温熱用パック」と聞いて、どんなものを想像するだろう。

使い捨てカイロのようなもの。

電子レンジで温めるパック。

肩や腰に当てる温熱器具。

少なくとも、パジャマやTシャツを真っ先に思い浮かべる人は少ないと思う。

ところが、現在の「家庭用遠赤外線血行促進用衣」というカテゴリーができる前、一部の遠赤外線衣類は、医療機器の一般的名称「温熱用パック」として製造販売届出されていた。

これは今回調べていて、かなり面白かった部分だ。

衣類専用の名前がなかった時代

厚生労働省が2022年12月14日に出した通知には、通知以前に「温熱用パック」として製造販売届出されていた、遠赤外線を輻射する衣類等が存在したことが明記されている。

出典:厚生労働省「遠赤外線を輻射する衣類等の取扱いについて」(2022年12月14日)

つまり、遠赤外線を利用した衣類が医療機器として扱われること自体は、2022年10月に突然始まったわけではない。

すでに商品が存在し、その一部は既存の一般的名称の枠内で届出されていた。

ただし、その制度上の「箱」が衣類専用ではなかった。

そこで出てきたのが、2022年10月の制度改正だ。

2022年10月11日「家庭用遠赤外線血行促進用衣」が新設

2022年10月11日、厚生労働省は医療機器の一般的名称に、「家庭用遠赤外線血行促進用衣」を追加した。

一般的名称コードは71105001。

分類は一般医療機器(クラスI)である。

定義では、遠赤外線の血行促進作用を利用し、疲労や筋肉のこり等の症状改善を目的とする衣類形状の器具が対象とされている。

「遠赤外線の血行促進作用により疲労や筋肉のこり等の症状改善を行うことを目的とした、衣類形状の器具」

出典:厚生労働省「医療機器の一般的名称等の改正について」(2022年10月11日)

ここでは、単に「服なら何でも対象」というわけではない。

生地には鉱物などを利用した特殊な加工が施され、一定程度の遠赤外線を輻射すること。

上半身用・下半身用として一定範囲を覆う衣類形状であること。

そして血行促進を通じて、疲労や筋肉のこり等の症状改善を目的とすること。

こうした条件が組み合わされている。

その2か月後、旧「温熱用パック」を整理

新しいカテゴリーを作っただけでは、それ以前から売られていた製品との関係が整理できない。

そこで同年12月14日、厚生労働省は、従来「温熱用パック」として届出されていた遠赤外線衣類等の取扱いを示した。

新しい「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の定義や自主基準に該当する製品については、新しい一般的名称で改めて届出を行い、旧「温熱用パック」の届出を廃止する。

一方、新カテゴリーに該当しないものについても、旧来の衣類・寝具等としての「温熱用パック」届出を整理する方針が示された。

つまり制度史を整理すると、

  1. 遠赤外線衣料自体は以前から存在していた
  2. 一部は「温熱用パック」という既存カテゴリーで届出されていた
  3. 2022年10月、衣類専用の「家庭用遠赤外線血行促進用衣」が新設された
  4. 同年12月、従来の届出を新しい枠組みへ整理する方針が示された

という流れになる。

2022年に生まれたのは、「遠赤外線で疲労回復する服」というアイデアそのものではなかった。

すでに存在していた遠赤外線衣類を、医療機器としてより明確に分類し、衣類に合った評価方法で扱うための専用カテゴリーができた、と見る方が近い。

「業界がブームに合わせて制度を作らせた」とまでは言えない

ここまで来ると、

「リカバリーウェア市場が伸びてきたので、業界団体が国に働きかけて専用カテゴリーを作ったのでは?」

という推測も浮かぶ。

日本医療機器工業会が「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の自主基準を作成したことは確認できる。

一方、今回確認した公開資料の範囲では、

「同工業会が制度新設そのものを要望した」

「業界のロビー活動で新カテゴリーが作られた」

とまで言える資料は確認できなかった。

確認できないこと

自主基準を業界団体が作成したことは確認できるが、制度新設の直接的な発案者や要望主体までは、公開資料から断定できない。

制度ができた理由について、いま最も堅く言えるのは、

既存の遠赤外線衣類を、衣類に適した一般的名称と評価基準へ整理する必要があった

というところまでだ。

では、その衣類専用カテゴリーへ入るために、実際どんな試験が求められているのか。

ここが意外に細かい。

一般医療機器型リカバリーウェアにはどんな基準がある? 遠赤外線と血流を検証

「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として一般医療機器の届出を行う場合、メーカーが、

「この生地から遠赤外線が出ます」

「着れば血行がよくなります」

と説明するだけでよいのだろうか。

実際には、そうではない。

一般社団法人日本医療機器工業会が作成し、厚生労働省が届出時の参考として周知している自主基準がある。

そしてこの基準が、想像していた以上に具体的だ。

遠赤外線の放射特性を測るだけでなく、実際に人が衣類を着たときの血流変化まで確認する。

出典:家庭用遠赤外線血行促進用衣 自主基準(2024年改正)

最初に「本当に遠赤外線特性が違うのか」を比べる

まず行うのが、生地そのものの遠赤外線放射特性の比較だ。

ここで重要なのは、加工した生地だけを測って「遠赤外線が出ました」で終わらないこと。

比較対象として、遠赤外線加工だけを施していない、できる限り同等の生地を用意する。

組成や染色方法などをなるべく揃え、違いを「遠赤外線加工の有無」へ近づける。

これは後の人体試験でも同じ考え方が使われる。

測定する波長は5〜20μm

測定はISO 19618:2017を準用し、5〜20μmの波長領域で行う。

試料台は40℃以上に設定する。

加工品と未加工品は同じ温度条件で比較する。

そして、加工した生地の全放射率が、未加工の対照試料より5%以上高いことが基準の一つになる。

「遠赤外線素材です」と名乗るだけではなく、比較対象を用意して数字を見る。

ここまでは、生地の物理的特性の試験だ。

だが、リカバリーウェアで知りたいのは「遠赤外線が出るか」だけではない。

人が着たときに、本当に血流が変わるのか。

そのために次の試験がある。

実際に人へ着てもらい、血流を測る

血流試験の被験者は、原則として健常成人。

年齢や性別を限定しない製品の場合、自主基準では男女を同数とし、最低でも16〜20例程度のデータを集めることが望ましいとしている。

もちろん、「20人集めれば自動的に合格」という意味ではない。

被験者数は統計的根拠を持って設定する必要があり、製品や試験計画によって適切な人数を考える。

それでも、「人に着せてみました」という数人規模のメーカー内テストとは少し違う水準が想定されていることは分かる。

血流計まで指定されている

血流量の測定には、

  • レーザードップラー血流計
  • 超音波血流計

などを使用する。

さらに血流だけでなく、体温や血圧も記録する。

人の血流は、ちょっとした条件で変化するからだ。

運動した直後なのか。

部屋が暑いのか寒いのか。

食事をしたばかりなのか。

緊張しているのか。

こうした条件を可能な限り揃えなければ、服による変化なのか判断しにくくなる。

室温20〜25℃、湿度50〜70%

そのため、試験環境にも条件がある。

  • 室温:20〜25℃
  • 相対湿度:50〜70%
  • 事前安静:15分以上

被験者には試験前に安静にしてもらい、着用前の体温、血流量、血圧を測る。

そこから衣類を着用し、一定時間ごとに再測定する。

自主基準では、15分後、30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分後など、最長で120分程度まで経時的に見る方法が示されている。

数分着て「暖かく感じました」で終わる試験ではない。

同じ人が「加工品」と「未加工品」の両方を着る

さらに重要なのが対照条件だ。

遠赤外線加工をした衣類だけを着せて、「着用後に血流が増えました」と評価すると、単に服を着たことで暖かくなっただけかもしれない。

そこで、同じ被験者に、

  • 遠赤外線加工品
  • 遠赤外線加工をしていない対照品

の両方を着てもらう。

しかも被験者には、どちらが加工品で、どちらが未加工品なのかを知らせない。

見た目や着心地もできるだけ同じものにして、遠赤外線加工以外の違いを減らす。

この設計によって、

「服を着て暖かくなった影響」

と、

「遠赤外線加工そのものによる差」

をできるだけ切り分けようとしている。

血流の差も5%

試験が終わると、加工品と未加工品、それぞれを着たときの血流変化を集計する。

自主基準では、着用後の測定値について平均値を算出し、未加工品と比較した加工品の血流量の差が5%以上だった場合、遠赤外線の効果による十分な血流量の増加があったと判定する。

「遠赤外線の効果による十分な血流量の増加があったものと判定する」

出典:家庭用遠赤外線血行促進用衣 自主基準「9.測定値の評価・判定」

遠赤外線放射特性でも5%。

血流量の比較でも5%。

「着るだけで疲労回復」という広告から想像していたより、かなり数字の世界だ。

ここまで読むと、

「なるほど。ちゃんと人で比較試験をして、血流も5%以上違わないといけないのか」

と、一気に科学的な印象が強くなる。

だが、この5%という数字自体にも注意が必要だ。

5%は「疲労回復に必要な臨床閾値」ではない

自主基準の補足資料を読むと、遠赤外線放射特性に設定された5%という値について、臨床評価から導き出した根拠文献は確認できなかったと説明されている。

では、なぜ5%なのか。

基準策定時に業界各社の実績値を聞き取り、その結果から一定の水準として妥当と判断されたためだ。

ここはかなり大事な点だと思う。

ここは区別

「5%という明確な数値基準が存在する」ことと、「5%を超えれば人間の疲労が臨床的に回復すると証明されている」ことは別である。

数字があると、それだけで「科学的に効果が証明された基準」のように見えやすい。

しかし、この5%は、少なくとも「疲労回復に必要な最小値」として臨床試験から導き出された数字ではない。

素材や作りが違えば、同じ結果をそのまま使えない

もう一つ興味深いのが、商品違いの扱いだ。

自主基準では、原材料や組成、加工方法、編み方などが異なる場合、原則として別品目として個別に試験する必要があるとしている。

ある一種類の特殊繊維で基準を満たしたからといって、ブランド内のすべての商品が自動的に同じ扱いになるわけではない。

この点は、後半のメーカー比較でも重要になる。

リカバリーウェアという名前が同じでも、使われている繊維も、加工方法も、届出状況も同じとは限らないからだ。

ここまでなら、むしろリカバリーウェアに対する印象は良くなるかもしれない。

遠赤外線を測る。

対照生地と比較する。

人へ実際に着せる。

室温と湿度を揃える。

同じ人に加工品と未加工品を着てもらう。

血流を最長120分まで追う。

思っていたより、ちゃんと試験している。

では、ここまでして一般医療機器として届出されているなら、

「この服は疲労回復に効くと国が認めている」

と考えてよいのだろうか。

ここで、記事の印象がもう一度ひっくり返る。

リカバリーウェアの「一般医療機器」とは? 国が効果を認めた意味ではない

認証書類と遠い栄誉のアトリエ

遠赤外線を測る。

人に着せる。

血流を測る。

未加工品と比べる。

ここまで具体的な自主基準があり、さらに商品には「一般医療機器」と書いてある。

それなら、

「PMDAや厚生労働省が商品ごとに試験データを確認して、疲労回復効果を認めている」

と考えたくなる。

しかし、制度上はそうではない。

「一般医療機器として届出されている」ことと、「国がその商品の疲労回復効果を個別審査して承認した」ことは別の話だ。

「一般医療機器」はクラスI

医療機器は、人体へ与えるリスクなどに応じて複数のクラスに分かれている。

「家庭用遠赤外線血行促進用衣」は、その中で一般医療機器(クラスI)に分類される。

比較的リスクの低い医療機器として扱われるカテゴリーだ。

そして、クラスIの製造販売に必要となるのは、原則として「承認申請」ではなく「製造販売届」である。

この「承認」と「届出」の違いが非常に重要になる。

PMDAは提出された届書を審査しない

PMDAの一般医療機器に関する案内には、かなり明確な一文がある。

「提出された届書については審査を行いません」

出典:PMDA「製造販売届に関する手続き」

つまり、一般医療機器の製造販売届を提出するとき、PMDAが個々の商品について、

「この疲労回復データは十分ですね」

「この商品なら効果があると認めます」

と一品ずつ審査して承認する仕組みではない。

届出者が、自らの責任で適切に届出を行う。

もちろん、だから何のルールもないという意味ではない。

製造販売業の許可、製造業登録、一般的名称の定義、関連通知、自主基準など、守るべき制度がある。

だが、それと「国が個別製品の効果を審査して保証した」ことは別だ。

表現上の重要ポイント

一般医療機器型リカバリーウェアについては、「一般医療機器として承認された」より、「一般医療機器として製造販売届が行われている」と表現する方が正確。

自主基準自身も「血流が増えた=有効」とは言っていない

そして、さらに面白いのが、自主基準そのものだ。

前章では、加工品と未加工品の血流量の差が5%以上なら、「遠赤外線の効果による十分な血流量の増加があった」と判定することを見た。

ここだけ読めば、

血流が増えた → 疲労回復に有効

とつなげたくなる。

しかし、自主基準はその解釈を明確に止めている。

「一定の血流量の増加をもって直ちに『医療機器としての有効性がある』という判断にはならない」

出典:家庭用遠赤外線血行促進用衣 自主基準「10.試験結果の考察」

これは今回の記事で最も重要な部分の一つだ。

遠赤外線加工によって血流が増えたと判定できる。

それでも、そこから「疲労回復」「筋肉のこり改善」などの医療機器としての有効性まで、直ちに証明されたことにはならない。

自主基準では、複数の効果を掲げる場合、それぞれの効果について医学的妥当性を考察することが必要とされ、専門家の意見や、より広い臨床データの取得も推奨されている。

つまり制度自身が、

「血流が変わる」

と、

「人が実際に疲労から回復する」

の間に、もう一段階あることを認めている。

だからといって「届出だから意味がない」でもない

ここまで読むと、今度は反対に、

「なんだ、届出だけなら一般医療機器なんて意味がないのでは?」

と思うかもしれない。

それも違う。

一般的名称には定義があり、遠赤外線放射特性を確認する方法があり、人を対象にした血流試験の自主基準もある。

試験環境や対照衣、測定方法まで具体的に示されている。

どんな服でも、商品ページに「疲労回復」と書けば同じように一般医療機器を名乗れる、という仕組みではない。

大事なのは、

「医療機器だから絶対に効く」

でも、

「届出だから何の意味もない」

でもない場所に立つことだ。

リカバリーウェアを理解するには、少なくとも三段階を分ける必要がある。

  1. 物理的特性:その生地は遠赤外線放射特性を持つのか
  2. 生理的変化:着用によって血流などが変わるのか
  3. 実際の回復:筋肉痛、疲労感、筋力、睡眠などが改善するのか

この三つはつながっている。

しかし、同じものではない。

「遠赤外線が出る」→「血流が変わる」→「疲労が回復する」

この三段階を一本の矢印で結んでしまうと、途中の重要な問いが抜け落ちる。

では、最後の「疲労が回復する」とは、そもそも何を指しているのか。

血流が増えれば回復なのか。

筋肉痛が減れば回復なのか。

よく眠れれば回復なのか。

次の章では、この「疲労回復」という一言を、研究で実際に測られている指標へ分解していく。

「疲労回復」とは何が回復することなのか

穏やかな回復と健康のイラスト

ここまでで、一般医療機器型リカバリーウェアには、遠赤外線放射特性や血流変化を確かめるための具体的な評価基準があることが分かった。

同時に、血流が増えたことだけで「疲労回復」という臨床的な効果まで証明されたことにはならない、という線引きも見えてきた。

では、そもそも「疲労が回復した」とは、何がどう変わることなのだろう。

日常会話では、「疲れが取れた」という言葉をかなり広く使う。

筋肉痛が楽になった。

体が軽く感じる。

ぐっすり眠れた。

朝起きたときにだるくない。

運動後でも翌日に脚が動く。

肩や背中のこりが気にならない。

これらは全部「回復した」と表現できそうだが、研究では同じ指標ではない。

研究で測られる「回復」は一種類ではない

遠赤外線衣料やスポーツリカバリーを扱う研究を見ると、「回復」はいくつもの指標へ分解されている。

評価するもの 研究で使われる例 何が分かるか
血流・循環 皮膚血流、動脈血流、経皮酸素分圧など 循環や酸素化に変化が起きたか
筋肉痛 DOMS、痛みの自己評価 本人が感じる筋肉痛が軽くなったか
筋損傷関連 CK、LDHなど 運動後の筋損傷に関連する生化学的変化
筋力 最大随意収縮、握力など 力を発揮する能力が戻ったか
運動パフォーマンス ジャンプ、スプリントなど 実際に動ける状態まで戻ったか
主観的疲労 疲労感、回復感、快適性 本人がどう感じているか
睡眠 睡眠時間、睡眠効率、REM睡眠、PSQIなど 睡眠状態や睡眠構造が変化したか
体温調節 皮膚温、鼓膜温、発汗など 休養中の熱の逃がし方が変化したか

こうして並べると、かなり違うことをまとめて「回復」と呼んでいることが分かる。

血流が増えても、筋肉痛が減るとは限らない

たとえば、ある衣類を着て皮膚の血流量が増えたとする。

これは「何も起きなかった」という結果ではない。少なくとも、測定した循環系の指標に変化があったという意味はある。

だが、そこから、

  • 筋肉痛が減った
  • 筋力が早く戻った
  • 走る速度が回復した
  • 本人の疲労感が軽くなった

まで自動的に決まるわけではない。

逆のこともある。

本人は「今日は楽だ」と感じているのに、CKや筋力などの客観指標に明確な変化が出ない場合もある。

生理的な指標、運動能力、本人の感覚は、関連する可能性はあっても同じものではない。

「よく眠れた」も一つではない

パジャマ型のリカバリーウェアでは、睡眠との関係もよく語られる。

だが、「睡眠が改善した」という言葉もかなり広い。

研究で見られるのは、たとえば、

  • 寝つくまでの時間
  • 途中で目が覚めた回数
  • 総睡眠時間
  • 睡眠効率
  • REM睡眠の割合
  • 睡眠中の体温
  • 発汗
  • 本人が感じる睡眠の質

などだ。

REM睡眠の割合が増えたとしても、総睡眠時間が増えたとは限らない。

睡眠中の体温調節が変化しても、本人が「ぐっすり眠れた」と感じるとは限らない。

反対に、本人の満足度が上がっても、睡眠ポリグラフ上の変化が大きいとは限らない。

つまり、

「睡眠中に何かが変わった」→「睡眠が改善した」→「疲労回復した」

も、一つずつ確認しなければならない。

「着たら楽だった」は否定しなくていい

この話をすると、

「でも実際に着たら朝が楽だった」

という体験談はどう考えればよいのか、という疑問も出てくる。

その体験自体を「気のせい」と切り捨てる必要はない。

主観的な疲労感や筋肉痛、睡眠満足度は、研究でも正式な評価項目として扱われる。

体感と原因は別

「着たら楽だった」という体験そのものは、その人にとって実際の体験である。

ただし、その体験だけから「遠赤外線によって血流が増え、その結果として疲労が回復した」と原因まで確定することはできない。

暖かさがちょうどよかったのかもしれない。

肌触りが自分に合っていたのかもしれない。

締め付けが少なく、寝返りしやすかったのかもしれない。

その日は単純に睡眠時間を十分取れたのかもしれない。

もちろん、特殊繊維が影響していた可能性もある。

だからこそ、「体感がある/ない」だけで終わらせず、実際の研究で何が変わっているのかを見る必要がある。

リカバリーウェアの効果を科学研究で検証――筋肉痛・血流・睡眠はどう変わる?

では、遠赤外線やバイオセラミックを利用した衣類を人が着たとき、研究では実際に何が起きているのか。

ここからは、海外の査読研究を中心に見ていく。

先に結論を言うと、肯定的な結果もあるが、結果は一貫していない。

しかも、「ある研究では効いて、別の研究では効かなかった」というだけではない。

同じ研究の中でも、筋肉痛では差が出たが筋力では差が出ない、といったことが起きている。

この“指標によって答えが変わる”ところが、リカバリーウェアを考えるうえで重要だ。

2016年――筋肉痛は少し早く回復、でも筋力やジャンプには差なし

2016年に発表された研究では、エリート男子サッカー選手21人を対象に、遠赤外線衣料の運動後回復効果が調べられた。

被験者は100回のドロップジャンプを行った後、遠赤外線を放射する衣類またはプラセボ衣類を着用した。

二重盲検・プラセボ対照という設計で、筋肉痛、CK、筋力、ジャンプ能力など複数の指標を追っている。

出典:PMID 27601783

結果を見ると、遅発性筋肉痛(DOMS)については、遠赤外線衣料群で回復がやや早い可能性が示された。

ここだけなら、

「やはりリカバリーウェアは筋肉痛に効く」

と言いたくなる。

しかし、同じ研究の別の指標を見ると印象が変わる。

スクワットジャンプ、カウンタームーブメントジャンプ、最大筋力、CKなどには、明確な群間差が確認されなかった。

つまり、同じ参加者、同じ衣類、同じ研究の中でも、

「筋肉痛の感じ方には差があったが、筋力や運動能力が明確に早く戻ったわけではない」

という結果になっている。

「疲労回復」を一つの数字では語れないことがよく分かる例だ。

2019年――同じような運動後回復研究で、明確な効果は出なかった

一方、2019年に発表された男性22人の研究では、強い伸張性運動後にバイオセラミック素材のパンツまたはプラセボパンツを着用した。

調べられたのは、

  • DOMS
  • CK
  • 乳酸脱水素酵素
  • 最大随意収縮
  • 主観的回復

など。

結果として、遠赤外線・バイオセラミック衣料による明確な回復促進は確認されなかった。

出典:PMID 31915483

2016年研究では筋肉痛に肯定的な兆候があったのに、こちらでは明確な改善が出ていない。

対象者、運動負荷、使用素材、着用条件が異なるため単純比較はできないが、少なくとも、

「遠赤外線衣料を着れば運動後回復が必ず早くなる」

というほど結果は揃っていない。

サッカーの試合後回復でも、有意差なし

サッカーの試合後に遠赤外線セラミック衣料を使用した研究でも、同様に慎重な結果が出ている。

筋肉痛、CK、ジャンプ、20mスプリント、主観的回復などを比較したが、遠赤外線衣料群が対照群を明確に上回る回復効果は確認されなかった。

出典:PMID 35321145

このあたりだけ読むと、「ではほとんど効かないのでは」と感じるかもしれない。

ところが、その後にも肯定的な研究が出ている。

2025年の小規模研究では、48時間後の神経筋回復に良い結果

2025年に発表された予備的研究では、レジスタンストレーニング後にFIRタイツまたはプラセボタイツを着用した10人を比較した。

48時間後のカウンタームーブメントジャンプ高、離地速度、modified RSIなどでFIR群の改善が大きく、主観的な回復感でも肯定的な結果が報告された。

出典:PMID 40700216

ただし、対象は10人、各群5人。

疲労関連バイオマーカーには明確な群間差がなかった。

したがって、「効果が証明された」というより、

「神経筋系や主観的回復に有望な可能性が見えた小規模な予備研究」

として見るのが適切だ。

2026年のネットワークメタ解析では、FIRが有望な項目も

2026年には、プロ・セミプロのサッカー選手を対象とした運動後回復研究をまとめたネットワークメタ解析が発表された。

対象となったのは23件のランダム化比較試験、計388人、17種類の回復介入。

出典:PMID 41647155 / DOI 10.3389/fphys.2026.1760392

この解析では、遠赤外線はカウンタームーブメントジャンプの回復で高く順位付けされ、最大随意収縮でも有意な改善が示された。

一方、20mスプリントでは、どの介入も有意な改善を示していない。

また、筋肉痛やCKでは別の回復方法が上位に来ている。

ここでも結論は、

「FIRが回復に効く」

と一文にするより、

「ある回復指標では有望だが、別の指標ではそうではない」

の方が実態に近い。

なお、この解析はプロ・セミプロのサッカー選手に関する研究群であり、一般の人が就寝時に着るすべてのリカバリーウェアへ、そのまま一般化できるものではない。

血流・酸素化では肯定的な研究もある

では、制度上の中心にある「血行促進」はどうだろう。

2018年に発表された研究では、遠赤外線を放射するセラミック入りシャツと通常のポリエステルシャツを比較し、皮膚の経皮酸素分圧(tcPO2)を測定した。

対象は約153人。

90分後、セラミック入り衣料では通常衣料に比べて、tcPO2が6.7%高かったと報告された。

出典:PMID 30381796

これは「何も起きていない」という結果ではない。

少なくとも皮膚周辺の酸素化に関係する指標で差が出た。

ただし、tcPO2は「疲労回復」そのものではない。

さらに、この研究には遠赤外線機能性繊維を扱うHologenix関係者が含まれているため、研究結果を見る際には企業関与・利益相反の情報も合わせて考えた方がよい。

2021年のCelliant研究でも酸素化は上昇

2021年の別研究では、健康な成人24人がCelliant繊維入りシャツとプラセボシャツを着用した。

その結果、経皮酸素分圧が30〜90分後におよそ5〜8%高くなり、90分時点では握力にも差が出たと報告されている。

出典:PMID 34377599

こうした研究を見ると、遠赤外線・バイオセラミック素材が皮膚周辺の酸素化や循環関連指標へ影響する可能性はある。

しかし、ここにも一段階ある。

皮膚酸素化が上がることと、筋肉痛や全身疲労が回復することは同じではない。

2025年には「血流に有意差なし」という研究も

さらに2025年に発表された31人のランダム化クロスオーバー試験では、バイオセラミック素材の腕用衣類と対照衣が比較された。

調べられたのは、

  • 上腕動脈径
  • 血流
  • 血管コンプライアンス
  • 皮膚温
  • 筋肉の微小循環

など。

しかし、これらの指標で明確な有意改善は確認されなかった。

出典:PMID 41478468

ここでまた、「血流」という一言の危うさが見えてくる。

経皮酸素分圧なのか。

皮膚血流なのか。

太い動脈の血流なのか。

筋肉内部の微小循環なのか。

同じ「循環関連」の研究でも、測っているものはかなり違う。

睡眠研究では、両群とも改善したがFIRだけが優れていたわけではない

次に睡眠。

2023年に発表されたパイロットRCTでは、睡眠の質が低い成人40人を、遠赤外線パジャマ群と見た目を揃えた対照パジャマ群に分けて6週間比較した。

出典:PMID 36900881

興味深いのは、両群ともPSQIによる睡眠の質が改善したことだ。

つまり、FIRパジャマを着た人だけが良くなったわけではない。

“not superior to those in the control group”

出典:Chen et al., 2023 / PMID 36900881

遠赤外線パジャマは対照パジャマより有意に優れていなかった。

身体的疲労についてはFIR群が良い方向を示したものの、統計学的には有意ではなく、今後の研究が必要という位置づけだった。

パジャマを変えたこと自体、着心地、期待、睡眠習慣の変化なども含め、衣類による睡眠研究では対照条件が重要になることが分かる。

2026年の睡眠研究では、体温とREM睡眠に変化

2026年には、健康な若年男性15人を対象とした二重盲検クロスオーバー試験が発表された。

遠赤外線衣料を着た夜では、

  • 鼓膜温が低かった
  • 睡眠途中の発汗が少なかった
  • REM睡眠の割合が高かった

という変化が報告されている。

出典:PMID 41600346

これは睡眠中の体温調節に遠赤外線衣料が何らかの影響を与える可能性を示す、興味深い結果だ。

ただし、総睡眠時間や睡眠効率には差がなかった。

つまり、

「体温調節とREM睡眠の一部が変わった」

ところまでは言えても、

「睡眠時間が増え、眠りの効率まで改善した」

とは言えない。

2021年の系統的レビューは「結論は確定的でない」

ここまで個別研究を読むと、肯定的な結果も否定的な結果も出てくる。

では、研究全体をまとめるとどうなのか。

2021年の系統的レビューでは、スポーツ時のパフォーマンスや回復に対する遠赤外線放射衣料の研究が複数データベースから検索され、条件を満たした11研究が評価された。

出典:PMID 33956901 / PLOS ONE 2021

結論はかなり慎重だ。

“results inconclusive”

出典:Bontemps et al., PLOS ONE 2021

比較可能なアウトカムを扱う研究が少なく、結果も一貫しないため、パフォーマンスや回復について確定的な結論を出すのは難しいとされた。

その後、2025年、2026年にも研究は追加されている。

だから2021年レビューだけで現在の研究状況を固定することもできない。

ただ、現在までの研究全体を見ても、

「遠赤外線衣料を着れば、誰でも、どんな種類の疲労でも、明確に早く回復する」

と一括できる状態ではない。

現在の研究を大づかみに整理すると

  • 筋肉痛・主観的回復で肯定的な研究がある一方、差が出ない研究もある
  • 筋力やジャンプなど一部の神経筋指標では有望な結果がある
  • スプリントや生化学マーカーでは一貫した改善が確認されていない
  • 皮膚酸素化が上昇した研究はあるが、直接的な血流指標で差がない研究もある
  • 睡眠中の体温調節やREM睡眠に変化が出た研究はあるが、睡眠時間・睡眠効率まで改善するとは限らない
  • 研究規模が小さいものが多く、素材・対象者・着用条件も異なる

科学的な位置づけとしては、

「まったく根拠がない」と切り捨てるのも違う。しかし「疲労回復効果が広く確立している」と言い切るにも、まだ距離がある。

そしてもう一つ。

ここまで紹介した研究の多くは、海外で使われる特定の遠赤外線素材やバイオセラミック衣料を研究したものだ。

その結果を、日本で現在「リカバリーウェア」と売られている全商品へ、そのまま当てはめることもできない。

実際の商品を見ると、同じ名前の中にかなり違うものが入っている。

同じリカバリーウェアでも何が違う? 主要ブランドを比べる

心地よい部屋着の暮らし比較

ここまで制度や研究を追ってきたところで、もう一度、実際に売られている商品へ戻ってみよう。

リカバリーウェアを検索すると、TENTIAL、VENEX、SIXPAD、AOKI、リライブ、WORKMANなど、かなり異なる企業の商品が並ぶ。

説明には、遠赤外線、特殊繊維、血行促進、疲労回復、休養、睡眠といった共通語が多い。

そのため、「結局どれも同じ仕組みなのでは」と思いやすい。

しかし、実際には二つの層を分けた方が分かりやすい。

  • 制度上の共通部分:一般医療機器としての遠赤外線・血行促進・疲労回復等
  • ブランド独自の部分:睡眠設計、休養思想、スポーツ、温度調節、独自プリント、着心地など

ブランド名より「その製品」を見る

最初にもう一度確認しておきたい。

「リカバリーウェア」は法的な一般的名称ではない。

したがって、同じブランド内でも、すべての商品が同じ医療機器区分とは限らない。

確認したいのは、

  • 一般医療機器と書かれているか
  • 一般的名称は何か
  • 製造販売届出番号があるか
  • 製造販売業者はどこか

といった製品単位の情報だ。

TENTIAL BAKUNE――「医療機器」と「睡眠ウェア」の二層

TENTIALのBAKUNEでは、一般医療機器として展開される製品に「SELFLAME」と呼ばれる特殊機能繊維が使われている。

繊維に含まれる特殊機能鉱物が、身体から放射される遠赤外線を輻射し、血行を促進するという説明だ。

ここは「家庭用遠赤外線血行促進用衣」としての制度上の文脈に近い。

一方で、BAKUNEのブランド全体を見ると、それだけではない。

寝返りしやすいパターン設計、肌触り、睡眠中のストレスを減らすことを意識した衣服設計など、「眠るための服」としての価値が強く打ち出されている。

ここは分けた方がいい。

血行促進や疲労回復等は、一般医療機器としての効能。

寝返りしやすさ、着心地、生地感などは、衣類としての商品設計。

どちらも購入理由にはなり得るが、同じ種類の根拠ではない。

VENEX――医療機器届出の有無と素材機能が一致しない例

VENEXは、この違いが特に分かりやすい。

同社は「PHT繊維」と呼ばれる独自素材を中心に商品を展開している。

そして現在、一般医療機器として届出された製品と、そうではない製品がある。

ここで興味深いのが、VENEX自身のFAQだ。

同社は、一般医療機器届出品と未届出品について、PHT繊維そのものの機能性に違いがあるという意味ではないと説明している。

出典:VENEX「よくあるご質問」

つまり、

「一般医療機器である」

と、

「そのブランドの特殊繊維を使っている」

は、必ずしも同じ境界線ではない。

製品の形状など、一般的名称の定義に入るかどうかも関係する。

たとえば、同じような素材を使っていても、アイマスクなど衣類としての定義から外れる形状なら、同じ届出になるとは限らない。

これは、

「一般医療機器ではない=何の機能性もない」

と考えるのが単純すぎることを示す具体例でもある。

もちろん逆に、非医療機器の製品について医療機器と同じ効能が証明されている、と読み替えることもできない。

SIXPAD――制度の骨格は似ていても、入口はスポーツ

SIXPADのリカバリーウェアも一般医療機器として展開されている。

使用されているのは「Mediculation」と呼ばれる特殊繊維で、鉱石由来の微粒子を練り込み、遠赤外線を輻射するという説明だ。

制度上の骨格だけを見ると、BAKUNEなどと大きく離れていない。

しかし、ブランドの文脈は違う。

SIXPADはもともと筋肉、トレーニング、コンディショニングとの結びつきが強いブランドだ。

同じ一般医療機器型ウェアでも、睡眠を入り口にするブランドと、スポーツ・パフォーマンスを入り口にするブランドでは、消費者が感じる価値も変わる。

AOKI――日常着の延長から入るリカバリーウェア

AOKIの「RECOVERY CARE+」は、また違う。

スポーツブランドでも、睡眠専業ブランドでもない。

スーツや日常衣料を扱う企業が、ルームウェア・日常着の延長としてリカバリーウェアへ入っている。

これは、リカバリーウェアが一部アスリート向けの特殊衣料から、かなり一般的な生活着へ広がったことを象徴している。

なお、AOKIは2022年6月にはすでに一般医療機器としてRECOVERY CARE+を販売していた。

一方、現在使われる「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という一般的名称が新設されたのは2022年10月。

したがって、2022年6月当時の商品を、現在のカテゴリーだったと扱うことはできない。

リライブ――一般医療機器の説明と独自技術を混ぜない

リライブも、今回のテーマを理解するうえで興味深い。

現在、一般医療機器として展開される製品がある一方、ブランド全体では、鉱石入りのプリントや、身体の動きを補助するとする「間接テーピング」などの独自技術も訴求されている。

ここで注意したいのは、

商品ページに一緒に書いてある技術説明が、すべて一般医療機器としての効能ではない

ということだ。

家庭用遠赤外線血行促進用衣としての疲労回復・血行促進等と、独自プリントや身体動作に関する説明は、別の主張として見る必要がある。

広告を読むときの注意

「一般医療機器」と書かれている商品に独自技術が複数搭載されていても、その独自技術すべてが医療機器として届出された効能という意味ではない。

WORKMAN――低価格でも一般医療機器は存在する

価格面で目立つのがWORKMANだ。

MEDIHEALシリーズには一般医療機器として販売されている製品があり、長袖シャツなどは1,900円程度から展開されている。

出典:WORKMAN「MEDIHEAL」

一方で、WORKMANのMEDiHEALには一般医療機器ではない商品もある。

さらに「MEDIHEAL Cosmos」のように、温度調節素材Outlastを組み合わせた商品もあり、この温度調節機能は一般医療機器としての効能とは別に考える必要がある。

ここでも、ブランド名やシリーズ名だけでは判断できない。

ブランド 制度・素材側の特徴 ブランド独自の軸
TENTIAL BAKUNE 遠赤外線・血行促進型の一般医療機器商品 睡眠、寝返り、着心地
VENEX PHT繊維、届出品と未届出品が存在 休養時専用
SIXPAD Mediculation、遠赤外線・血行促進型 スポーツ、コンディショニング
AOKI 一般医療機器型商品 日常着、ルームウェア
リライブ 一般医療機器型製品あり 独自プリント、間接テーピング等
WORKMAN 一般医療機器商品と非医療機器商品が混在 低価格、普段着、追加素材

こうして並べると、「リカバリーウェア」という一語の中に、かなり違う商品が含まれていることが分かる。

そして、ここから次の疑問が出てくる。

同じように「一般医療機器」「血行促進」「疲労回復」と書かれているのに、なぜ片方は数千円で、もう片方は数万円なのか。

高いリカバリーウェアほど効果がある? 数千円と数万円の違い

商品を比較すると、価格差はかなり大きい。

WORKMANのように数千円で買える商品もあれば、BAKUNEなどのように上下を揃えると2万円、3万円を超える商品もある。

ここまで金額が違うと、自然にこう考える。

「高い方が、疲労回復効果も強いのでは?」

しかし、現在確認できる制度や独立研究から、価格と疲労回復効果の強さをそのまま結び付けることはできない。

一般医療機器に「松・竹・梅」の効果ランクはない

「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という一般的名称の中に、価格別の効果ランクがあるわけではない。

たとえば、

  • 5,000円なら血流5%
  • 15,000円なら血流10%
  • 30,000円なら血流20%

といった制度ではない。

価格が高いから医療機器として上位という仕組みもない。

1,900円程度の商品と数万円の商品が、同じ一般的名称の中に存在し得る。

価格差そのものは、医療機器としての格付けではない。

では、数万円の商品は何が高いのか

だからといって、高価格の商品に価値がないという意味ではない。

衣類の価格には、医療機器としての効能以外にも多くの要素が入る。

  • 独自に開発した特殊繊維
  • 糸や生地の品質
  • 厚みや伸縮性
  • 縫製
  • 立体的なパターン設計
  • 寝返りのしやすさ
  • 肌触り
  • 吸汗速乾
  • 温度調節
  • 夏用・冬用といった季節対応
  • デザイン
  • 耐久性
  • ブランド開発費
  • 広告宣伝
  • 販売チャネル
  • 実店舗やサポート体制

寝るときに毎晩使うなら、着心地はかなり重要だ。

どれだけ機能説明が立派でも、生地がチクチクして眠れなければ使わなくなる。

冬は快適でも夏は暑すぎることもある。

毎日使うなら、洗濯後の乾きやすさや耐久性、洗い替えを用意できる価格も重要になる。

高価格商品の価格差には、こうした「衣類としての完成度」も含まれている。

独自機能が増えても「疲労回復効能が強くなる」とは限らない

高価格帯の商品ほど、医療機器としての基本説明以外に、独自機能が多く書かれていることがある。

睡眠設計。

特殊な編み方。

独自プリント。

温度調節。

ストレッチ。

寝返りサポート。

これらは商品選びの価値にはなる。

ただし、

「追加機能が多い」=「医療機器としての疲労回復効能が強い」

ではない。

そこは前章のメーカー比較と同じで、それぞれの機能が何の根拠で説明されているかを見る必要がある。

安いものは効かない、でもない

反対に、低価格だから意味がないとも言えない。

WORKMANのように、かなり低価格でも一般医療機器として販売される商品は存在する。

販売価格は、原材料だけではなく、広告費、店舗網、流通、商品数、販売戦略などによっても変わる。

だから、

「安い=血行促進作用も弱い」

という判断にも根拠はない。

最初に試してみたい人なら、低価格の商品から始めるという考え方も十分合理的だ。

結局、「何にお金を払うか」を見る

リカバリーウェアの価格を見るときは、

「高いか安いか」ではなく、「自分は何に対してお金を払っているのか」

で考えると分かりやすい。

一般医療機器としての遠赤外線・血行促進という部分なのか。

睡眠時の着心地なのか。

生地なのか。

デザインなのか。

独自機能なのか。

ブランドなのか。

価格について現在言えること

  • 高価格ほど疲労回復効果が強い、という制度上のランクはない
  • 価格帯ごとの効果差を示した独立研究も確立していない
  • 価格差には生地、縫製、設計、ブランド、追加機能などが含まれる
  • 低価格でも一般医療機器の商品は存在する
  • 「回復効果の強さ」だけでなく、衣類として何に価値を感じるかを見る方が現実的

実際の価格帯を見比べるなら

ここまでの違いを理解したうえで、現在どんな商品が売られ、どのくらいの価格帯なのかを見比べるのは参考になる。

楽天市場でリカバリーウェアの価格帯を見比べる

【楽天市場】リカバリーウエアの通販 - デイリーランキング入賞商品一覧
楽天ランキングでの「リカバリーウエア」の検索結果です。 口コミ(レビュー)も多数。今、売れている商品はコレ!話題の最新トレンドをリアルタイムにチェック。男女別の週間・月間ランキングであなたの欲しい!がきっと見つかります。

ただし、ランキング上位だから疲労回復効果が強いという意味ではない。

一般医療機器表示、素材、形状、価格帯などを比較するための材料として見るのがよい。

リカバリーウェアの選び方――購入前に確認したい5つのポイント

ここまで調べてくると、商品選びで避けたい考え方が見えてくる。

「高いから一番効くはず」

「一般医療機器だから間違いない」

「一般医療機器ではないから全部意味がない」

いずれも単純化しすぎだ。

購入前に最低限確認したいポイントを、5つにまとめておこう。

1.「リカバリーウェア」という名前だけで判断しない

繰り返しになるが、「リカバリーウェア」は医療機器制度上の正式名称ではない。

同じ名前で売られていても、一般医療機器の商品もあれば、そうでない商品もある。

ブランド名や「リカバリー」という文字だけでは判断できない。

まずは、その製品について実際に何が説明されているかを見る。

2.一般医療機器なら、一般的名称と届出番号を見る

一般医療機器であることを重視するなら、商品ページやパッケージで、

  • 一般的名称:家庭用遠赤外線血行促進用衣
  • 医療機器区分:一般医療機器
  • 製造販売届出番号
  • 製造販売業者

を確認したい。

「一般医療機器」という大きな文字だけではなく、製品単位の情報を見る。

ただし、届出番号があるからといって、PMDAがその商品の疲労回復効果を個別審査して承認したという意味ではない。

3.自分が何を「回復」させたいのか決める

これはかなり重要だ。

一口にリカバリーウェアが欲しいと言っても、目的は人によって違う。

  • 仕事終わりの疲労感を軽くしたい
  • スポーツ後の筋肉痛が気になる
  • 肩や背中のこりが気になる
  • 寒い夜に快適に眠りたい
  • 寝返りしやすいパジャマが欲しい
  • 翌朝の「だるさ」を少しでも減らしたい

血流、筋肉痛、筋力、睡眠、体感は全部違う指標だ。

「一番強いリカバリーウェア」を探すより、

「自分が何を期待して買うのか」

を決める方が、商品を比較しやすい。

4.医療機器としての効能と独自機能を分ける

商品ページには、多くの情報が一つのページに並ぶ。

血行促進。

疲労回復。

特殊鉱物。

温度調節。

寝返り設計。

独自プリント。

ストレッチ。

それらが全部「一般医療機器として認められた効能」という意味ではない。

説明 主に見るべき位置づけ
血行促進・疲労回復等 一般医療機器としての効能
寝返りしやすい設計 衣服としての設計
温度調節素材 追加素材の機能
独自プリント・テーピング理論 メーカー独自の説明

一度分けて読むだけでも、広告の見え方はかなり変わる。

5.最後は「毎日着られるか」

そして最終的には、ものすごく普通の話になる。

その服を毎日着たいと思えるか。

リカバリーウェアは、薬のように一回服用して終わるものではない。

就寝中や休養中など、長時間着用する商品が多い。

だから、

  • 暑すぎないか
  • 寒すぎないか
  • 肌触りが好きか
  • 締め付けが気にならないか
  • 寝返りしやすいか
  • 洗濯しやすいか
  • 乾きやすいか
  • 洗い替えを用意できる価格か

といった条件は、意外なほど大切だ。

数万円払っても、自分には暑すぎて着なくなれば意味がない。

逆に、低価格でも着心地が合い、毎晩無理なく使えるなら、満足度は高くなるかもしれない。

ちなみに楽天市場でのリカバリーウェアの売れてる順のランキングはこちら⇨

健康面の注意

リカバリーウェアは、原因の分からない強い疲労や長期間続く体調不良を診断・治療するものではない。疲労が長く続く、急に強いだるさが出た、日常生活へ支障が出るといった場合は、衣類だけで対処せず必要に応じて医療機関へ相談したい。

結論|リカバリーウェアの効果はどこまで本当なのか

最初の疑問へ戻ろう。

暖かいだけなら昔からある。では、何がリカバリーウェアを「リカバリー」させているのか。

今回、歴史を遡って最初に分かったのは、遠赤外線を利用した衣料そのものは新しくない、ということだった。

1980年代にはすでに、セラミックなどを利用した遠赤外線加工保温繊維が存在する。

1990年代には遠赤外線素材を利用した肌着も売られていた。

そして「リカバリーウェア」という名前の商品も、少なくとも2010年には市場に出ている。

2022年になって突然、「疲れを取る不思議な繊維」が発明されたわけではない。

では2022年に何が起きたのか。

遠赤外線衣料を医療機器として扱うための衣類専用カテゴリーが整備された。

それ以前には、一部の商品が「温熱用パック」という、服としては少し不思議な一般的名称の中で届出されていた。

そこへ「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という専用の箱ができ、遠赤外線放射特性や血流変化を調べる具体的な自主基準も整えられた。

加工品と未加工品を比べる。

5〜20μmの遠赤外線放射特性を測る。

人へ実際に着てもらう。

室温20〜25℃、湿度50〜70%に揃える。

最長120分程度まで血流を測る。

同じ被験者に加工品と対照衣を着てもらい、5%という数字で評価する。

「着るだけで回復」という宣伝から想像するより、制度の中身はかなり具体的だった。

ここだけなら、

「やはり一般医療機器なのだから、疲労回復効果は国のお墨付きなのだ」

と思いたくなる。

しかし、その次にもう一つ反転があった。

一般医療機器は届出制であり、PMDAが個々の商品について疲労回復効果を一つずつ事前審査し、承認する仕組みではない。

しかも自主基準自身が、血流量が増えたことだけで「医療機器としての有効性がある」と判断できるわけではない、と明記している。

ここが、この話の一番重要なところだと思う。

遠赤外線が出る。

血流が変わる。

疲労が回復する。

この三つは、つながる可能性がある。

だが、同じ意味ではない。

研究を見ても、答えは一色ではなかった

科学研究でも、話は同じだった。

筋肉痛が少し早く軽くなった研究がある。

ジャンプ力や最大随意収縮の回復で有望な結果が出た研究もある。

皮膚の酸素化が高くなった研究もある。

睡眠中の体温や発汗、REM睡眠に変化が出た研究もある。

その一方で、筋肉痛に差が出なかった研究もある。

CKや筋力に差がない研究もある。

直接的な血流指標で有意差が出なかった研究もある。

睡眠時間や睡眠効率が改善しなかった研究もある。

つまり、

「遠赤外線リカバリーウェアを着れば、誰でも、どんな疲れでも、明確に早く回復する」

とまで言える状況ではない。

今回の調査から一番近い答え

一般医療機器型のリカバリーウェアには、遠赤外線放射や血流変化を確認する具体的な評価枠組みが存在する。

一方、それだけで、誰にでもあらゆる意味の「疲労回復」が起こると証明されたわけではない。

  • 遠赤外線衣料は1980年代から存在する
  • リカバリーウェア市場も2022年以前から存在する
  • 2022年に衣類専用の一般医療機器カテゴリーが整備された
  • 遠赤外線放射特性や血流を測る具体的な自主基準がある
  • 一般医療機器は届出制で、PMDAが個別効果を事前審査する制度ではない
  • 肯定的な研究結果は存在するが、アウトカムごとに結果は一致していない
  • 高価格ほど疲労回復効果が強いという根拠は確認できない

「ただの暖かい服」と切り捨てるのも違う

それでも、ここまで調べてきて、

「結局、ただの暖かい服だった」

と結論づけるのも違う。

遠赤外線放射特性を測り、対照衣と比較し、人の血流まで見る評価枠組みがある。

独立研究でも、すべてではないにせよ、生理指標や一部の回復指標に変化が出た報告は存在する。

だから、

「全部インチキ」

と切り捨てるのも、この調査結果とは合わない。

一番近い表現を選ぶなら、

「遠赤外線による血流や体温調節など、回復に関係し得る生理作用には一定の根拠がある。一方、それがどの人の、どの種類の疲労を、どの程度回復させるのかはまだ研究途上」

というところだろう。

最後に残ったのは、「回復とは何か」という疑問だった

今回、リカバリーウェアについて調べ始めたとき、知りたかったのは単純だった。

「着るだけで、本当に疲れが取れるのか。」

ところが、制度と研究を追うほど、別の疑問の方が大きくなっていった。

そもそも、私たちは何をもって「回復した」と言っているのだろう。

血流が増えることなのか。

筋肉痛が減ることなのか。

筋力が戻ることなのか。

走れるようになることなのか。

ぐっすり眠れることなのか。

翌朝、「今日はちょっと楽だ」と感じることなのか。

日常で使う「疲れが取れた」という感覚は、おそらく、その全部が少しずつ混ざっている。

だからこそ、「疲労回復」という言葉は強い。

血流という数字も、睡眠という体験も、筋肉痛という感覚も、一つの言葉の中へまとめられてしまう。

リカバリーウェアは、魔法の服ではない。

しかし、単なる暖かい肌着の言い換えと切り捨てるには、制度も、評価基準も、研究も積み重なっている。

昔からある遠赤外線という技術。

その技術を「休養」「回復」という文脈へ組み替えた市場。

後から整えられた医療機器制度。

そして今も完全には一致しない研究結果。

その間に残っている「どこからを回復と呼ぶのか」という余白こそ、この“着るだけで回復する服”をめぐる一番興味深い部分なのかもしれない。

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